術後2日目
朝、昨日の昼と夜に少し食べたものを全部戻してしまった……。吐いたあと口をゆすぐこともできず地味に辛い。この時の私にはお水を持ってきてほしいと言う気力もなかった。この辺りで、自分がうまく声を出せず、聞き取れるような声を出すのに結構なエネルギーを使うことに気づきはじめた。ミッキーマウスみたいな、すっとんきょうな声しか出なくなっていたにも関わらず、そのことをツッコむ人は1人もおらず、明らかに声が出ていないのに思ったよりコミュニケーションも成立していたので気に病むほどではなかった。
看護師さんによると身体に2つ刺さってる麻薬の痛み止めの点滴が吐き気をもよおしやすいらしく、黒い布袋に入ってる方はもう止めても良いよと言われた。その後様子を見にきた麻酔科の先生に、痛みか吐き気のどっちを取るかだけど麻薬の点滴を取って痛みが増しても良いのか確認された。麻酔科の先生は痛みをとった方が良いという考えのようで私は少し押され気味だったが、吐き気の方が辛かろうというスタンスの看護師さんの勧めで夜にはとってもらうことになった。正直背中は鉄板みたいになっていて感覚がやや麻痺していたので、この麻薬の点滴を取ったことによる痛みの変化はよくわからなかった。
看護師さんから「リハビリを受けると容態が好転する人が多い」と聞いていたので、私はリハの時間を心待ちにしていた。早く良くなりたくてリハの先生に午前中に来てもらったものの、フワフワ、フラフラで車椅子への移動と立ち上がりしかできず。10分くらいで希望のリハビリタイムは終わってしまった。絶望の淵の中ベッドにカムバック。今日はベッドを60度まで上げて良いということで、昼食時に副看護師長さんが(半ば強引に)上げてくれた。60度どころじゃなくほぼ90度な気がしたけれど、このことがきっかけでまさかの元気が戻り始めたのだった。上体を起こした状態でご飯を食べられたことで、お腹の膨満感もややマシに。
それまでスマホを注視するのも辛かったのに、上体を起こすとLINE POP2やSNSも少しずつできるようになっていった。そんな様子を見て、副看護師長さんが「側弯ノート」を持ってきてくれた。側弯の手術件数が多い病院ということで始まった、手術体験記が代々書かれているノートである。日毎にどういうことがあったか結構詳しく書いてくれている人が多くて、みんなが術後2日目や3日目をどう過ごしていたのか何度も読み返した。ノートを読み込んでいく中で、私は大半の人が術後2日目で歩いているぽいと気づいてしまった。みんな歩けてるなら私も歩けるはずなんだが!
午前中のリハではギブしてしまったけれど今の状態なら歩けそうという自信もあって、定期的に血圧とか測りに来る看護師さん全員に「歩きたいです」と訴えた。が、「初歩きはリハの先生がおった方がな〜」と翌日にまわされそうな事態に。しかし、夜に様子を見に来てくれた副看護師長さんが若手の看護師さんに「連れてったり〜」と言ってくださった。
尿管や色々点滴が着いた状態ではあったものの、ジュースを買いに休憩室まで歩けることになった。月から帰ってきたのかというくらい重力が重くのしかかる感じがあったけれど、執念でふらつくことなく歩ききった。休憩室の自販機前まで行き、スッキリ甘いものが飲みたくてウェルチの果汁50%のやつを買った。歩きも割と安定していたので、同伴してくれた看護師さんに「明日から歩行器なくても歩けそう」と言っていただけたのが素直に嬉しかった。
ところがどっこい夜は一番キツかったのだった。どの姿勢でも背中が痛くて、飲み薬も点滴も最大量使ってしまったため眠剤を貰ってみたものの効果は無し。更に吐き気が襲ってきて、痛いやら吐きそうやらで、足をバタバタさせたり暴れていた。あまりの辛さにヤギ合宿中の荒川さんに電話したらしげさんが出て、やや正気を取り戻した。坐薬の鎮痛剤を入れてもらったところ少しマシになったけれど、吐き気との戦いは続き一睡もできず。吐いたのは初歩きで買いに行ったジュースだけだったので、ご飯吐いて点滴に逆戻りにならなくて一安心。でもせっかく買ったジュースだったのでちょっと残念でもあった。
吐き気をもよおす麻薬の痛み止めは背中にも刺さっているらしく、見てもらうと刺さっている管のところから出血していたので翌朝抜いてもらうことに。これで吐き気ともきっと決別できる。