2026年10月9日金曜日

職務質問とキノコのための4曲

無性に眠くて、沢山お昼寝をした。夕方、家を出てみたら、家の前で白いTシャツの男が職務質問を受けていた。警察官は男女の二人組で、男性の警察官が白いTシャツの男の体全体をベタベタと触り、ポケットなどに危ないものが入っていないか確認していた。近くに車やバイクがあるわけでもなかったから、一時不停止で捕まったアンラッキーな男というわけでもなく、ただの怪しい歩行者のようだった。私の家の斜め前には土が少し盛られた丘があり、主に配達業者たちの立ちションスポットになっている。ちょうど立ちションしているところを巡回中の警察と鉢合わせて、職質されたのかなと思った。

油彩転写の仕込みをして、しめじを大量に入れたナポリタンを作って食べた。昼寝のしすぎで夜寝られなかったら困るなと思い、YouTubeでOtto Bensonのライブ映像でも見ようと検索したら、Otto Bensonがキノコ農場でキノコのために4曲を演奏した記録映像を見つけた。「やまぶしファーム」という名前だったので日本のキノコ農場なのかと思いきや、日系アメリカ人三人によるロサンゼルスの農場だった。キノコを飲食店に卸しているほか、売れ残ったキノコを乾燥させてサプリメントなども作っているらしい。

YouTubeの説明欄には、以下のような文言があった。

Mushrooms respond to their environment — humidity, airflow, light, vibration. While there’s still much we don’t know about how fungi perceive the world, growers have long noticed that subtle environmental changes can influence growth. This series explores the intersection of music, cultivation, and atmosphere.

キノコは湿度、空気の流れ、光、振動といった周囲の環境に反応する。菌類が世界をどのように知覚しているのかについてはまだわからないことも多いが、栽培者たちは昔から、わずかな環境の変化が成長に影響しうることに気づいてきた。このシリーズは、音楽と栽培、そしてその場の空気が交わるところを探っていく。(筆者訳)

樽に入ったお酒にクラシックを聴かせるというのは聞いたことがあるけれど、キノコに音楽を聴かせるこの試みは胎教的な感じがするなと思った。のびのび育ちそう。映像では、演者の三方をキノコが観客のように取り巻いていて、私も棚で育てられるキノコの気持ちになれた。他のmushroom musicもチルな雰囲気で、聴きながら、「チル」という言葉を初めて聞いたのは中学3年生の時だったなと思い出していた。

ある日の授業終わり、クラスメイトの一人が「チルしに行こー」と友達に声をかけているのを見たのだった。その人は中学で唯一私のことを苗字で呼び捨てにする人で、年度始めに一人ずつ教卓の前に立って自己紹介をした際、私の自己紹介の最中に「声ヤバ」と言ってきた人物でもある。その人に似た人は日本に沢山いて、新宿などの大きな駅に行くと見かけてびっくりすることがある。同い年なんだから今も学ランを着ているわけがないのに。

2026年10月8日木曜日

ナボコフの共感覚と不安なタクシー

 

荒川さんに、昨日の日記で触れた指点字の共感覚の話をしたら、『ナボコフ自伝』の中でナボコフが、アルファベットに色を感じる自身の共感覚について説明している部分を朗読してくれた。「つややかな黒檀」「象牙の背のついた手鏡」「泥色の靴紐」といったように、単なる色ではなく物質感を伴っているのが印象的だった。「r」と「ち」のことを思い出してみる。どちらもショッキングピンクのイメージだけれど、太いサテンのリボンや、向こうが透けて見えるセロファン、蛍光マーカーの線など、ショッキングピンク色のどんな物にも結びつきはしないなと思った。

夕方、流しのタクシーを拾ってみたら、運転手がかなり歳を重ねたおじいさんだった。丸まった背中は小さく、本来のガタイはわからない。目がとても悪く文字を識別するのが難しいようで、伝えた住所を音声入力していた。操作に戸惑っている様子だったので覗いてみると、早速「目黒区」を「練馬区」とミスられていて、教えてあげた。カーナビの画面の上にあるエアコンの吹き出し口には、羽根状の板に紐をかけて虫眼鏡が括り付けられていた。運転手はその虫眼鏡をカーナビの画面に近づけたり遠ざけたりして、音声入力した住所が合っているかじっくり確認していた。出発してからも、信号に引っかかるたびにその虫眼鏡でカーナビを拡大し、ルートを確認していた。そんな様子だったので終始不安は拭えなかったが、東京のタクシーにしては安全運転だった。

2026年10月7日水曜日

おいしい胃液と指点字の共感覚


駅前の交差点近くに大きめの植え込みスペースがあって、ラベンダー、ローズマリー、セージが植えられていた。実家の花壇と同じラインナップだなと思った。ミツバチが飛び交っていたのはセージだけで、セージもツツジみたいに、花の根元を吸うと甘いことを思い出した。ついでに、セージでハーブティーを淹れてみたら全くおいしさが分からなくてびっくりしたことも思い出した。あれは小学生の時のことだったから、今ならおいしく飲めると思う。花壇のセージはもうないけど。

植え込みの前には、テイクアウト専門の珈琲屋さんがある。夏にその店でエスプレッソトニックを頼んでみたら、おいしかったんだけど、味が胃液すぎると思った。おいしい胃液。さすがにこれは世界の誰かが同じことを言っているだろうと思い、Xで「エスプレッソトニック 胃液」と検索した。すぐに全く同じことを言っている人が見つかってホッとした。

花壇を見て、今日はやっていないその珈琲屋さんを見て、職場に行った。私が仕事で使う指点字には略字がある。よく使う言葉を少ないタップ数で伝えることで、通訳のラグを小さくできる。略字は便利ではあるが、前置符ごとに明確な共通項があるかというとそうでもないので、正直覚えにくい。

通訳者歴も5年を超えて、略字が共感覚的なイメージとともに記憶されていることに気がついた。例えば「環境」は、6の点(右手薬指)プラス「か」(左手人差し指+右手薬指)の2タップなんだけど、遠いところをぐるっと囲むイメージが紐づいている。「情報」は456の点(右手の人差し指、中指、薬指)プラス長音一字下げ(右手と左手の薬指)の2タップで、これは情報となるもの(縦)を横に流していくイメージと紐づいているなと思った。点字には、ひらがなとアルファベットと数字で同じ配置のものがある。例えば「ら」「5」「e」は同じ指の配置なんだけど、どれも緑色のイメージが先に立って思い出される。「r」と「ち」はショッキングピンクだったりと、こちらは指の配置と色が対応している。

通訳中は必死で、どんな思い出し方だろうとなりふり構っていられない。でも、ひと段落して振り返ると、さっきの思い出し方は変だったなと思うことがある。何と何を紐づけているのか、気づいたらメモするようにしようと思った。

2026年10月6日火曜日

つぶれチョコレート


昼に画材を買いに行ったあと、夜まで家にいた。21時頃、iPhoneから「今日は全く歩いていません」という旨の通知がきて、昨日もほぼ家から出ていないんだったなと思った。二日連続で歩かないのは体に悪い気がしたので、買い物を兼ねて外に出ることにした。

階段を下りるとき、下の階に住むおばあさんの部屋から「紅茶のおいしい喫茶店」という歌が聞こえてきた。90歳を超えるというおばあさんは一人暮らしだ。耳が遠いので音量を上げて観ているテレビは、四六時中音漏れしている。今では逆に、聞こえないほうが不安になる。一度、家の外からお経が聞こえてきてビビって外に出たら、お向かいさんの法事だとわかって安心したこともある。

スーパーには、横幅と縦幅が同じくらいある球体のようなおじさんがいた。無性にチョコレートが食べたい気がしてお菓子売り場に行ったら、知らないお菓子がいくつもあった。明治の「生のとき」というチョコレート菓子を買ってみた。仰々しく梱包された中には、ねっちりとしたミルクチョコレートが入っていた。ベイクが溶け合って一つになったような、カントリーマアムチョコまみれが鞄の中で潰れた時のような。おいしいことはおいしいんだけれど、パッケージに助けられ過ぎているお菓子だった。梅干しで言う「つぶれ梅」のような、「つぶれチョコレート」といった感じがした。鞄の中で潰れ、また固まったことで別の物体のようになったチョコレート菓子も、それはそれでおいしかったりするよなということを思い出させてくれるお菓子だった。ニッチな需要が満たされる。

2026年9月22日火曜日

自由が丘と滑りにくい靴


6年ぶりくらいに自由が丘に行った。東横線に乗り込むと、狭山観光の広告が掲示されていた。その前に乗っていた千代田線には箱根の広告があった。この電車がこの後どこまで行くのか、想像させる広告だなと思った。本当に疲れているときにそんな広告を見たら、目的地で降りずに、そのまま広告の中に広がる自然をこの目で見に行こうとしてしまうかもしれない。上野駅で、土浦行きの電車を上海行きと空目したことも思い出した。本当に上海まで行くなら乗りたいと思って二度見したら、やはり土浦なのだった。

友達たちのフリーマーケットに顔を出した後、ムーンスターで靴を新調した。私は足が大きめなのでパルコやルミネには履ける靴がほとんどなく、ハタチくらいまでは無印で靴を買っていた。この間も、妹の結婚式のためにパンプスを買いに池袋の商業施設を全て回ったところ、履けたのは一足だけだった。デザインを選べる段階にいない。無印にはレディース・メンズの区別なく、0.5cm刻みで靴が用意されていた。しかし無印の靴は私には靴底が薄かったようで、夏はアスファルトの熱さが足裏を襲い、冬は指先が凍えるように冷たくなった。他の靴と比較する機会もそうなかったので、靴とはそういうもんだと思っていた。そこに現れたのが、ムーンスターの810s(エイトテンス)というプロダクトラインだった。無印の靴と見た目というかトーンが似ていて、サイズも男女の区別なく0.5cm刻みで用意されていたので、なんとなく一足買ってみた。足裏が熱くもならず、冷たくもならないことに感動したのをよく覚えている。

810sはプロユースの靴を日常用にデザインしたもので、私は厨房用の、油でぬるぬるの床でも滑らないという靴を買い続けている。地元京都は石畳が多く、雨上がりに滑らないのはとても心強いのだ。ちなみにコンバースはめちゃくちゃ滑る。連れが石畳で滑った時は肘をガシッと持って引き上げると尾てい骨を救ってあげられます。

元々履いていたのは紐靴だったんだけど、同じ靴底でマジックテープタイプのものが出ていたので、試し履きさせてもらった。紐靴のときは若干余裕があるかなという感じだったのだが、新しいマジックテープタイプは店員さんの言う通り少し小さめの作りだった。これから冬にタイツと靴下を重ね履きしたり、分厚い靴下を履いたりすることを考えて、ワンサイズ上のものを購入した。今まで810sは基本的にネットで買ってきたのだけど、今回、自由が丘ついでに試し履きをして良かったと心から思った。

帰り道、駅で、スヌーピーのお揃いのストラップと、スヌーピーみたいな犬のお揃いのバッヂをカバンにつけているカップルを見た。そういう犬を飼っているのかなと思った。