2026年10月8日木曜日

ナボコフの共感覚と不安なタクシー

 

荒川さんに、昨日の日記で触れた指点字の共感覚の話をしたら、『ナボコフ自伝』の中でナボコフが、アルファベットに色を感じる自身の共感覚について説明している部分を朗読してくれた。「つややかな黒檀」「象牙の背のついた手鏡」「泥色の靴紐」といったように、単なる色ではなく物質感を伴っているのが印象的だった。「r」と「ち」のことを思い出してみる。どちらもショッキングピンクのイメージだけれど、太いサテンのリボンや、向こうが透けて見えるセロファン、蛍光マーカーの線など、ショッキングピンク色のどんな物にも結びつきはしないなと思った。

夕方、流しのタクシーを拾ってみたら、運転手がかなり歳を重ねたおじいさんだった。丸まった背中は小さく、本来のガタイはわからない。目がとても悪く文字を識別するのが難しいようで、伝えた住所を音声入力していた。操作に戸惑っている様子だったので覗いてみると、早速「目黒区」を「練馬区」とミスられていて、教えてあげた。カーナビの画面の上にあるエアコンの吹き出し口には、羽根状の板に紐をかけて虫眼鏡が括り付けられていた。運転手はその虫眼鏡をカーナビの画面に近づけたり遠ざけたりして、音声入力した住所が合っているかじっくり確認していた。出発してからも、信号に引っかかるたびにその虫眼鏡でカーナビを拡大し、ルートを確認していた。そんな様子だったので終始不安は拭えなかったが、東京のタクシーにしては安全運転だった。