2020年の2月、私は病院でテレビカードというものに出会った。
テレビカードとはテレビを見るためのプリペイドカードだ。私がいた病院では同じテレビカードで冷蔵庫を稼働させることもできるとのことだった。入院期間は約2週間と聞いていたので、購入し使ってみることにした。
初めてテレビカードを使ってテレビを見た感想は「気が休まらない」だった。
テレビカードを使うためにタイマーという機械に入れるのだが、入れたら最後、テレビをつけるたびに公衆電話でテレホンカードを使う時のようにカウントが始まるのである。お金に余裕があれば別なのだろうが、その頃の私にとって1枚千円のテレビカードは高めの買い物だった。そのため、CMの間はもったいないからテレビを消して終わったであろう時間に再びつけたり等、様々にケチり方を試行錯誤していた。最終的にはCMがないNHKで気になる番組がないか番組表を素早くチェックして、気になる番組が3つくらい連続する時間を狙って見るようになっていた。しかし気になる番組とはいえ少しでも満足感に乏しい時はすぐ消してしまった。テレビカードはダラダラ時間を浪費することをお金の浪費として明示してきた。それは私のお金と時間を有意義に使いたい気持ちを刺激したものの、安静にするしかない身にとって心労が生まれたに過ぎなかった。
一方、カーテン越しの隣に入院していたおばさんは四六時中テレビをつけていた。当初はその財力に慄いたものの、テレビの本質はダラダラと見続けるところにあることに気がつくきっかけにもなった。
きっとあんまり先が長くなさそうなおばさんにとって、テレビは気晴らしになっていた。ダラダラとテレビを見続けることは多種多様な情報を否応無しに流し込むことであり、その間だけは問題を抱えた自分の肉体から目を逸らすことができたのだろうかと想像した。