5歳くらいまで、自分より年上の人が現実世界で泣いているところを見たことがなくて、自分より年上は泣かないものなのだと思い込んでいた。自分がその時点で指している年上の年齢になったにもかかわらず自分は泣いていることについては大して疑問に思っていなかったので諸々破綻していたけれど。年中になったある日、幼稚園内で結構気の強い年長さんのお姉さん二人組のうちの一人が廊下にうずくまって泣いているところを目撃した。その瞬間、自分より年上の人は泣かないのだという思い込みは崩れ落ちた。目の前で近場の絶対的強者であるお姉さんが泣いている。そんなことがあって良いものかと、本当にどうすれば良いのかわからないまま見て見ぬふりをした記憶がある。
小学生になって、お葬式にいく機会が何度かあった。そこでお母さんやお父さんが泣いているところを見て徐々に、人間は何歳になっても泣くものなのだということを受け入れていった気がする。でもまだその頃の私はそんな人々をできるだけ視界に入れないように目を背けていた。できる限り見ない方が良いものだと思っていたし、見たところで自分にできることもしたいことも何も無いしなと思っていた。