帰り道にその姿はなかった。
上野駅構内のニューデイズでおにぎりを買って常磐線快速に乗った。とてもすいていたので二人がけが向かい合っている座席に座りおにぎりを食べながらスマホを触ろうとしたら、スマホは手から滑り落ちた。拾おうとかがむがその姿はさっき消えた紙のアキラ100%と同じくどこにもなかった。近くに座っていたお姉さんが電話を貸してくれ、自分に電話をかけたが音沙汰無い。焦って駅員に事情を話そうとしたが「スマホが手から落ちたら姿が消えた」と意味不明にもとれる説明しかできなかった。元々北千住で降りたかったが駅員の「北千住ー松戸間が時間があるのでその時なら…」という言葉が聞こえて、焦って応対していたら気づいたときには私は柏で降りることになっていた。私は「柏で降ります」と言っていたらしい。
北千住駅を過ぎ、駅員さんがやってきた。私が座っていた座席のシート部分をべりべりと剥がすと椅子の骨格なるものが露になり、私のスマホはその檻に閉じ込められていた。幸い私はスマホにストラップを付けていたため、駅員さんが割りばしをそのストラップの輪っかに引っ掛け釣って保護に至った。
私はもしかしたら落とした瞬間に拾って届けられたか拾いパクられただけならどうしようと最悪な状況のシミュレーションを繰り返していた。なので、まさか普段座っていた座椅子の中が空洞で、その中に入り込んでいるとは思ってもみなかった。だからといって、椅子の中が何で詰まっていると思っていたかと聞かれても困ったけれど。
無事スマホを保護し有言実行柏に降り立った私は、せっかくなのでキネマ旬報シネマで映画を一本見てから帰宅した。
帰宅後溜まった通知を確認していたら見知らぬ番号から何度も電話が来ている。不気味だなと消してしまったが、寝る前に、車内で失くしたスマホを探すために電話をかけさせてもらったお姉さんのものだと合点がいった。070から始まる電話番号を見たのはこれが初めてだった。
帰宅後溜まった通知を確認していたら見知らぬ番号から何度も電話が来ている。不気味だなと消してしまったが、寝る前に、車内で失くしたスマホを探すために電話をかけさせてもらったお姉さんのものだと合点がいった。070から始まる電話番号を見たのはこれが初めてだった。